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仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)387号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 長谷川謙造

被控訴人(附帯控訴人) 岩手知事

訴訟代理人 田沢文雄外一名

主文

本件控訴及び附帯控訴はいずれもこれを棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人が昭和二十二年十一月二十三日付岩手は第三三二号買収令書を以て岩手県二戸郡爾薩体村大字仁佐平字横手四十八番の一、畑四畝歩及び同所四十八番の六、畑一反一畝歩につきなした買収処分の無効であることを確認する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人の附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴代理人は控訴棄却の判決及び控訴人敗訴の部分を取消す。原判決添付目録第一号記載の農地につき被控訴人がなした買収処分を取消す旨の請求を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において

一  本件農地の買収が昭和二十年十一月二十三日現在におけるいわゆる遡及買収であることは争わないが、当時本件農地は控訴人の自作地であつたから、これを小作地として樹てた買収計画は無効であり、これに基因する被控訴人の買収処分亦無効である。

二  控訴人が訴外玉川吉三郎に対し、爾薩体村大字仁佐平字横手四十八番の一乃至六の農地七筆を賃貸していたこと及び右農地の内四十八番の一乃至三の農地が既に買収済であることは争わない。

三  本件土地の内四十八番の四畑二畝二十九歩の表示は四十八番の三畑三畝七歩の、四十八番の五畑三畝十八歩の表示は四十八番の一畑四畝歩の各誤記であるから訂正する。

と述べ、被控訴代理人において

控訴人主張の右三、の事実は否認する、四十八番の三及び同番の一の畑は同番の二と共に昭和二十二年十二月十日買収令書を交付した第二期買収であつて、これに対しては訴の提起がなく確定したものである。爾余の四十八番の四乃至六の土地三筆は第三期買収であつて、買収計画を樹てた旨の公告をしたのは昭和二十二年九月三日である。

と述べた外、原判決摘示と同じであるからこれを引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一乃至十二号証を提出し、原審証人中里勇次郎、仏川義雄、玉川吉三郎、当審証人五日市清吉、原審証人長谷川竹松(当審は第一、二回)の各証言、原審における控訴人本人尋問の結果を援用し、乙第一号証の成立は知らないが爾余の乙各号証の成立を認めると述べ、被控訴代理人において乙第一乃至第六号証を提出し原審及び当審証人坂本善之助、当審証人玉川吉三郎、佐藤貞雄、五日市清吉の各証言を援用し、甲第七、九号証の成立は知らない、其の余の甲各号証の成立を認めると述べた。

理由

先ず控訴人の控訴につき案ずるに、本件において控訴人は当初被控訴人に対し、原判決添付目録第二号記載の農地につき被控訴人のなした買収処分の取消を求めたものであるが、当審においては右買収処分の取消請求を撤回して、右買収処分の無効確認を求める趣旨に請求及び請求原因を変更したものである。而して原判決は控訴人が昭和二十四年三月五日買収令書の交付を受けたのであるから、自作農創設特別措置法第四十七条の二の規定により買収令書の交付を受けた日の翌日から一ケ月後である同年四月五日までに訴を提起すべきにかかわらず、昭和二十五年十二月十四日買収処分の取消を求めることの請求をしたのであるから、出訴期間の経過後になされた不適法な訴として本審の審判をしないで却下したものであることは記録上明かである。

しからば当裁判所において右の訴変更を許すべきものとして控訴人の新たな請求につき理由の有無を判断することとせば、これを認容する場合は勿論、請求を棄却する場合においても原判決はその取消を免れないのであつて、当審としては必ず原審に差戻さざるを得ないのである。

そして本件を原審に差戻し、本案の審判を為すこととすれば、更に攻撃防禦の方法や証拠方法等についても新たな提出を予想されるので、この間相当の日時も必要とすべきことも当然であるから、本件訴の変更は著しく訴訟手続を遅延せしめる場合に該当し許されないものといわねばならない、然らば従前の買収処分の取消請求は依然として当審における審判の対象となるものというべきところ、控訴人が買収令書の交付を受けたのは昭和二十四年三月五日である事実は当時者間に争がなく、控訴人において前示農地の買収処分の取消を求める旨の訴を提起する旨申立てたのは昭和二十五年十二月二十四日であることは記録上明かである本件では、自作農創設特別措置法(昭和二十七年法律第二百三十号農地法施行法により廃止された)第四十七条の二の規定による出訴期間経過後に提起された不適法の訴として却下せらるべきものである。よつてこれと同趣旨の原判決は相当である。

次に被控訴人の附帯控訴につき判断する。まず控訴人に原判決添付目録第一号記載の四十八番の四畑二畝二十九歩は同番の三畑三畝七歩の誤りであると主張するので案ずるに、もともと本件四十八番の一乃至六の畑は岩手県軽米町から同県福岡町に至る旧県道をさしはさみ、略南北にそれぞれ三筆宛相接しているものであることは当事者間に争のない事実であるところ、当審証人長谷川竹松(第一、二回)五日市清吉、玉川吉三郎の各証言に、右五日市清吉の証言により真正に成立したと認むべき甲第九号証、成立に争のない甲第十、十一号証を総合すれば、被控訴人が同所四十八番の四畑二畝二十七歩として買収を為し、控訴人において該買収処分の取消を求めた畑の実地は前記旧県道の北側西端の一筆であつて、真実は同番の三畑三畝七歩に外ならないことを認定するに十分である。この認定に副わない当審証人佐藤貞雄、坂本善之助の各証言はたやすく信用し難く、他に右の認定を覆すに足る証拠はない。然らば本件買収令書に前記の如く同番の四畑二畝二十九歩と記載されたとしても買収の目的となつたものは前記四十八番の三畑であるとみるべきは勿論である。而してこれが買収処分の違法であるとなす控訴人の主張については当裁判所は原判決と同じ理由で控訴人の本訴請求を相当と認める。よつてここに原判決の理由記載を引用する(但し原判決添付目録第一号記載の四十八番の四畑二畝二十九歩は四十八番の三畑三畝七歩と訂正する)なお当審証人玉川吉三郎の爾余の証言は措信し難く、他の被控訴人が当審において援用した証拠では右認定を左右するに足らない。

以上の次第で控訴人の本件控訴及び被控訴人の附帯控訴はいずれも理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条第九十五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 板垣市太郎 檀崎喜作 沼尻芳孝)

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